今日は7年前に死んでしまった、私の愛犬の話をします。とても個人的なことだけれど、でも、一回形にしなきゃ落ち着かないのです。
「ぴ~ひゃら、ぴ~ひゃら」
ある日、ベルがすとんと腰を抜かした。その日からベルはだんだん動けなくなり、やがて首が曲がった。私の小犬は年を取ってしまったのだ。
暖かな秋の日、首が曲がったベルを抱いて公園のベンチに腰掛けた。穏やかな日差しを浴びながら、ベルは体を私に預け、じっとしていた。
その時、通りの向こうから秋祭りの笛の音が近づいて来た。
ぴ~ひゃら、ぴ~ひゃら。
動けなくなった小犬を抱きながら、私はいっそう切なくなった。
ぴ~ひゃら、ぴ~ひゃらはいつまでも続いた。
「ベルの鬼退治」
とうとうベルが死んだ。斎場に問い合わせると、お棺は2サイズあると言う。あんなに悲しんだのに、安いほうのお棺にベルを入れたくなる。でも、ぎりぎりで無理。
次の日、私は冷たく固くなったベルを斎場へ運んだ。受付の女性にベルを預けると、しばらく待たされた。きれいな斎場で、花壇の花なんて、ぼ~っと眺めていたら、「準備ができました」と声をかけられた。
斎場の奥に火葬炉があり、ベルは炉の前の台車に押せられていた。ベルは白い死に装束で、手には数珠、お腹に刀まで乗せられていた。刀はあの世に行くとき、鬼と戦うためのもの。
あんな小さなお手てで、鬼と戦えるわけないじゃないの。私は、「ベルちゃん、鬼がいたら逃げなさいね」と、心の中で言った。
火葬係の男性に「首輪を取ってもらえますか?燃えにくいので」と言われ、仕方なく外す。あの世で迷子にならないために着けておいたのだけれど。
係の男性は、丁寧にお悔やみを言ってくれた。わんこのお葬式です。私ったら、つい、本気かな?なんて思ってしまった。
男性は、うす紫のラルフローレンのシャツを着ていた。うす紫はお葬式だからよね、多分。それにしてもラルフです。お給料いいのだな、なんて、関係のないことばかり考える。
火葬が終わった。
ベルの骨は細くて、魚の骨みたい。私はたくさん拾って、骨壺に入れた。